映画『ゴッドランド』とフレームサイズとスライドフィルム

先日映画『ゴッドランド』を観ました。

アイスランドに最初の教会を建造し、布教の足掛かりを築く使命を受けて旅立った牧師と、ガイドや村人たちとのごく狭い人間関係で展開されるスリラーもの。

ミニシアター系の作品なので、ハリウッドの娯楽映画のようなケレン味はありません。

ただひたすらアイスランドの退屈で壮大な自然が続きます。

正直に言うとストーリーは眠気を抑えるために少々頑張らねばならない部類なんですが、演出の工夫で胸にフックをかけられた気分でした。

「写真」が演出のキーワード

物語の時代は19世紀後半。

主人公の牧師は写真が趣味らしく、当時の重装備な写真機材を後生大事に抱えてアイスランドの極限の大地を横断します。

鶏卵写真という、銀板写真の進化系の撮影技法を映像で観られたのが良かった。

当時の撮影機材を観られたのも良かった。当時の写真がいかに高価で、大切な瞬間を収めるために使われていたのか伝わってきます。

そしてこの主人公の牧師、良い人そうに見えて実はそうでもないということがストーリーの進行とともにわかってきます。
ところどころで「おや?」と違和感を覚える発言をする。

決定的なのが、ことごとく写真に対してケチなところなのです。

そういえば旅の最中も、他の同行者が重い荷物を運んでいる中で自分は自分の撮影機材しか運んでいない。
自分がよしとする写真を撮ることが先決で、被写体を愛情もって見つめることなどしない。
ちょっと詳しく知り合えば、その狭隘さにがっかりするタイプの人間です。

狭隘な男と写真というものが、このスリラー映画の演出のキーワードなのでした。

レトロなフレームサイズ

映画が少し進行したところで私は「あれ?」と特異点に気がつきました。

映画のフレームサイズがシネマスコープじゃない。アスペクト比でいうと、「4:3」くらい。
映画館のスクリーンに意図的にフレーム枠を映し込んでいるので、より切り取られた視覚を意識することになりました。
Youtubeで観たトレーラーは、アスペクト比を間違えているわけではなく、本当にこういう映像が最後まで続くのです。

鑑賞後に調べたところ、監督は意図的にそのようにフレーム枠を残したのだそうで、まさしく「写真」が演出のテーマだったことがわかります。

「写真」、しかも現代の手軽なデジタル写真ではなく、とても貴重で高価で高度な撮影技術が要った時代の写真です。
その背後には、レンズに納まりきれない多くのバックストーリーがあってようやく撮影されていた時代の写真です。

古い写真ほど物言わぬ事物が背後に隠されているもので、私は古い写真を見ると、そのフレームの外側をぼんやり考えたりします。

本作の監督も、同時代のアイスランドで撮影された古い写真を発見したのをきっかけにストーリーを構想したというので、
昔の写真がいかに大変なものだったかを知っているからこそ、撮影前後のストーリーを空想できるのだなと感心しました。

最近手に入れた嬉しいレトロアイテム

『ゴッドランド』で映える風景を延々と観ていながら、私はなんとも懐かしい気分になっていました。

「4:3」というアスペクト比はもはや懐かしいものになっている。

そしてこのフレーム枠、私はつい最近手に入れた嬉しいアイテムを思い出さずにはいられませんでした。

最近、懐かしのスライドフィルムをイギリスから買ったのです。

どうしてスライドフィルムの存在を思い出したのか忘れましたが、ふとあの可愛らしいフォルムの存在を思い出し、安く手に入れることができるか調べたのです。

するとあったあった!まとめ売りで安く投げ売りされています。
イギリス人が撮影したスライドフィルムたち。どんな風景が映っているのか興味津々で、ついポチってしまいました。

なんて可愛い。愛おしさと懐かしさで、まったく見ず知らずの他人の写真なのにじんわり幸福な気持ちになります。

銀板写真の時代よりもずっと安価になっているとはいえ、スライドフィルムを作成するためにはやや費用がかかった時代です。

私の幼少期のフィルムカメラの時代でも、写真は有限で高価なものでした。
バカスカいい加減に撮っていいものではありません。
写真は厳選した風景、整えられたシチュエーションで礼儀正しく撮るものでした。

スライドフィルム用のリバーサルフィルムは一般的なネガフィルムより一層高価なものだったので、スライドフィルム化された写真はますます厳選されたワンショットだったはずです。
この写真たちが撮影される前後の物語がぼんやり空想できて、光に透過して見るのがとても楽しい。

古い写真の魅力は、ネガティブなものがほぼ映っていないということでしょうか。

少なくとも庶民たちにとっては高価なものだったので、幸福な瞬間を収めようと選別が働く。
そこに嫌なもの、憎たらしいもの、悲惨なものが映されていることは、ジャーナリストでもない限りほとんどない。
スライドフィルムにされるものはなおさらです。

ところが近頃ネット上で目にする写真というものは、もちろんポジティブなものも多いのだけれど、嫌悪を誘うもの、憤怒を招くもの、軽蔑を生む光景が映されていることがなんて多いこと。

私はそれに少しげんなりしているので、最近はそれらから少し距離を取って見ないようにしています。

古いスライドフィルムを覗いているくらいがちょうどいい心地よさなのです。

スライドフィルムの魅力にちょっとハマりそうなので、今度追加で注文しようと考えています。

一枚あたりの単価が安いので、ZINEのオマケにいい感じ。

いつかレトロをテーマにしたオマケつきZINE(同人誌)を作りたいと考えていて、そのオマケになり得るものをせっせと収集している昨今です。

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