今日でEpisode 4-3は終了です。 Episode 4の章タイトル「家族」に相応しい終わり方がしたいなと前々から構想していたものがようやく実現できてほっとしました。 そして疲れた。
もうPhotoshopのブラシ素材さまさまです。 近頃だいぶブラシ素材に頼っています。素材職人さんどうもありがとう。 ブラシ素材というものの発見によって漫画の制作スピードがとんでもなく上がりました。
もう空の描写だってね、前はチマチマ一時間かかって手で描いていたものが、5秒でできるんですよ。 しかも手で描くよりもずっと上手い雲が。 もう戻れません戻れません。
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60ページから112ページに至るまでのクエン君とマルセルの会話シーンは、いろいろと難産でした。
私は漫画を描くにあたって、まずシナリオという名のセリフの羅列を書くことから始めるのですが、 そのシナリオがなかなか進まず難産。 そして書きあがったものをA4用紙に出力すると6ページも出てきてウヘェ。
そこからネームを書き、コマ割りと吹き出しの位置を決めて、いざ作画。
しかし、このシーンは長いながらただクエン君とマルセルが会話しているだけの場なので、 本来はどこかバーのような所で座って飲みながら会話しているほうが自然だ。 サラリーマンが主人公の場合によくある、居酒屋とかで同僚や上司と愚痴を言い合っているような、 そういう光景。
しかしそんな場面設定でこんな長いシーンを描いていられない、 恐ろしくつまらない、自分でそんなもの描きたくない!
場所を移動しながらふたりが会話していることにして、 ドS軍人ストラウスの登場シーンでは軍楽隊の演習風景を見学しているという姿を描くアイディアが浮かんだので なんとか飽きずに描き進めることができました。
これがただ座っているだけの会話シーンだったら作者である自分でも投げ出しそう。
いろいろ描いてて苦しかったのですが、とにかく一歩一歩進めばなんとかなる。 長大なこのシーンを描き上げられたことが、なんだか自分への自信にもつながりました。
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この漫画は構想した当初から結末は決まっていて、私はラストシーンを延々と思い浮かべながら原稿を描いています。
従って、登場人物のセリフもよくわからないところがあるかもしれないのですが、 そこはあまり気にせず読み進んでください。
完結させられた後、最初から読み直して、ああこの人物のこの発言はこういうことだったのか、 と納得できるような、そんな二度おいしい漫画になったらいいなぁと考えています。
特にマルセルには重要なセリフをたくさん語ってもらっているのですが、 今は意味不明でもそんなにお気になさらず。
それでも今回マルセルに語らせたことは、 必ずしも正解ではないにしろこういう見方もあるのだと表現したかったことでした。
欠損に対して生物が働かせる補完作用については、 私が尊敬する福岡伸一さんの著書に詳しく面白く書かれてあるので是非皆さんにも読んでいただきたいです。
『生物と無生物のあいだ』という名著から、繰り返し福岡伸一さんは生物は "動的平衡" 状態にあると語られています。
"動的平衡" とはどういうことかというと、 生物は常に無秩序がその個体を破壊するよりも前に、自らを壊しながら再生して平衡状態を保っているということです。
これまたややこしい、どういうことやねん、という感じですが、
この世の万物には「エントロピー増大の法則」というものがかかっていて、 どんなものでも自然の経過にまかせていれば、やがて秩序のある状態から無秩序に変わってゆく。
テーブルの上にあるコップ(秩序のある状態)は何万年もそのままではない。 たとえ人の手が入らずとも、やがて物質は劣化にさらされ、形状は失われ、自然と破壊される。(無秩序な状態)
これは無機物ならずとも生命体でも同じで、 生物は常に破壊される方向に向かっている。
それでも昨日も今日も変わらず自分が存在していられるのは、 エントロピー増大の法則が自分を破壊してしまうよりも前に、先回りして自らの細胞を壊しながら細胞を新たに作り出しているから。
60兆個もある人間の細胞でも、数年も経てばすっかり全てが入れ替わっているそうですが、 つまり新陳代謝とは、そういうことなのですね。
生物はどんな欠損にも柔軟に対応して平衡状態を保とうとする本能がある。
そのことを実体験をもって痛切に実感したというのが、 福岡伸一さんの長年の研究課題であるGP2のノックアウトマウスのエピソードだといいます。
GP2とは膵臓内の細胞に存在するタンパク質で、 膵臓の消化酵素を運ぶ分泌顆粒の膜に結合しているタンパク質のうち、最も大量に存在している。重要なものにちがいない。 けれどその役割がまだよくわからない。
分子生物学では、あるタンパク質の機能を調べるために、そのタンパク質を作り出す遺伝子を破壊したマウスを造り、調べるのが常套手段。 (遺伝子を破壊されたマウスをノックアウトマウスといいます)
さて大変な苦労の結果、GP2ノックアウトマウスを造った。
重要なタンパク質が欠損しているのだから、このマウスにも何か異常が起こっているはずだ。
けれど、誕生したマウスには何も起こらなかった。
飼育ケージの中で、何事もなく一心に餌を食べている。
『一見正常に見える。 けれどこの正常さは、遺伝子の欠損が何の影響ももたらさなかったものとして現れているのではない。
GP2の欠落を、ある時以降、見事に埋め合わせた結果なのだ。
私たちは、遺伝子をひとつ失ったマウスに何事も起こらなかったことに落胆するのではなく、 何事も起こらなかったことに驚愕すべきなのである。
動的な平衡が持つ、やわらかな適応力となめらかな復元力の大きさにこそ感嘆すべきなのだ。』
このくだりがとても印象的だったので、漫画の中でも少し触れておこうと思いました。
主人公とマルセルでは、生命や科学に対する価値観が違うということを、なんとなく匂わせておきたいなぁ、と思って描いた回でした。
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Date: 2017/02/11(土)
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